朝から、みごとな五月晴れの空がどこまでも広がっていま
した。なぜかそんなことまで憶えています。
さすがに日にちまでは覚えていないが、日曜日のもうすぐ
お昼かなという頃でした。熊本ホテルキャッスルのエントラ
ンスをはいってすぐの右手には、かなり広い空間が、少し
ばかり贅沢な雰囲気の喫茶になっていました。
外でお見合いをするときには、たいていそこを利用すること
にしていました。学生時代にはよくアルバイトに通っていたの
で、フロントにも顔見知りがチラホラいたし、僕にとっては
とても気安いところだったこともあります。
宿泊客はチェックアウトし、ランチには少し早い、ホテルのロ
ビーは旅行シーズンの休日にしては空いている時間帯です。
念のため言っておきますが、お見合いといっても昔風の仰々し
さ雰囲気とは程遠いもので、知人か友人と待ち合わせて、お
しゃべりを楽しむといった感じです。
先ずBさんが見えられました。どこでお会いしても本当に爽や
かな女性です。どんな場面でも、仕草もしゃべり方もナチュ
ラルで、”らしさ”を感じさせてくれる人なのです。
軽く挨拶を交わして、ソファに腰を下ろすと、テーブルの中央
には、いつも季節々々の花の一輪挿しがさりげなく置いてあ
ります。こんな細やかな心遣いがあるとないとでは随分違う
ものですね。言葉の一節々々が、春風が吹くように、唇から
出てきます。
それとなく、エントランスホールの方に注意を払っていますと
と、こちらに真っ直ぐ歩いてくるAさんの顔が見えました。腰
を上げてお互いを紹介します。
あれ、あれ、仏頂面かと思いきや、何かしら雰囲気が違います。
昨晩の電話の前でのぐずり気味が嘘のようです。
お二人を紹介して会話が始まるともうAさんったら絶好調なの
です。
「ほらほら、御覧なさい、昨晩電話で話したとおりでしょう」
、、、と、もちろん心のなかで言いました。それが通じたの
かどうかはしりませんが、途中でAさんと目が合うと、
にっこり、何かのサインみたいに、、、ベリーグーッ！です
か。こうなるともう僕の出る幕なんてありません。野暮用の
口実をつけてそそくさと退席しました。そして、、
その日の夜八時過ぎ、営業を終え消灯しようとした矢先、
電話が鳴りました。もちろんAさんからです
今夕食を共にして別れたばかりだという旨。昨日の電話とは
打って変わってウキウキした気分がこっちに伝わってきます。
「野田さんが言われた通りでした。いうことをきいて本当に
よかった。あなたがあれ程薦められた訳が今日は身に沁みて
分かりました、一目見てね。
彼女がどう思われたかは知りませんが、私はもう彼女以外に
考えられません。」
その後すぐBさんからも連絡があり、別れしなにAさんからお
付き合いしたいと言われたので、「喜んで」と返事をした
ということでした。
それから一月後、電光石火の婚約で、さらに五ヶ月後に挙式
と相成った次第です。
しかし、それにしてもです、それから五年後にまさか、あのよ
うな絵葉書ならぬ写真入り葉書をいただくとは、神ならぬ身
には知る由もありません。
一度、その劇的すぎる転身の経緯なり、心中なりを聞きたい
と思ってるのですが、遠隔地ということもあって、まだ実現
しないままです。