人間いたるところに青山あり・その２
（ジンカンイタルトコロニセイザンアリ）
＊
今まで対岸の火事と思っていたのが、そうは問屋が卸さなく
なってきたのが二十一世紀という時代なのだと思います。
結婚難という問題もその一角にあるのでしょう。生物種がす
ごい勢いで絶滅しかけていますが、ニンゲンも生物の一種で
ある以上、出生率の低下（人口の減少）ということが始まり
ます。これは経済先進国特有の社会現象です。暮らしが豊か
になり生業にゆとりができれば、出生率は上がるはずなのに
不思議なことです。
これはおそらく上ばかり見すぎて、足元がお留守になってし
まったせいなのでしょう。人間的成長の場の一つであるはず
の教育の場も、上（社会的なステータス）を目指すためだけ
の手段となってしまいました。
今人間（ジンカン＝世の中）は”学歴”が支配しています。ど
うも困ったことに学歴が知性や良心を養う方向に向かってい
ない、そんな気がしてなりません。学歴が出世の手段になる
とそうなってくるのかもしれません。
正直なところガッコーの勉強ばかりをしていると、頭の仕組
みがピラピラの平面になって、心の成長から見放され、心の
バカになってしまうような気がします。そうなりますと、たと
え結婚相手が見つかったとしても、結婚生活を全うすることは
難しいように思われます。結婚生活そして家族のなりわいは
とても人間的な営みであるからです。
今まで私たちは・・・・
「より遠く、より速く、より合理的に」
を合言葉にして生きてきました。インフラ全体がそうなってい
ます。新幹線に高速道路に地下鉄に、ジェット旅客機ではなん
と一両日中に地球の裏側に行けるようになりました。夢のよう
な話ですが、そうではなくこれはまさに夢そのものだったので
しょう。リニアとやらができて日本列島をあっという間に縦断
できたとして、それがどうしたという時代が到来しつつありま
す。これからの時代の私たちの合言葉は・・・・
「より近く、よりゆっくり、より寛容に」
身の回りの景色をじっくりと味わいながら、目的地に到着する
ことばかりではなく、人生という名の旅を堪能することが大切
になってくると思います。
結婚相手を見つけるにしても、相手のステータスに目をくら
まされるのでなく、相手の心のひだのなんともいえない陰影を
感じ取ることが必要になってくるのかもしれません。
結婚相談所もだんだん広域になり、婚活アプリというメデイア
をフルに活用したものも広く利用されるようになりました。
一見しますととても便利なようですが、いいことばかりではな
いようです。
「より遠く、より速く、より合理的に」
という今までの時代の流れにはフィットしているのかもしれま
せんが、その時代が加速度的に変わりつつあります。とりわけ
「合理的に」というのは、あくまで経済的合理性のことであっ
て、これが私たちの日常の暮らしの中にまで土足で入ってくる
ととても困ったことになります。
そんな資本主義的な（市場）経済も飽和状態になり、息も絶え
絶えになって、見直しというより人間（ジンカン＝世の中）
のUターンという変化がはっきりと見えてきました。
私たちの日常の基本は言うまでもなく、結婚から始まる家族や
家庭ですが、そんな結婚、家族、家庭になくてはならないもの
は何かというと、気忙しい合理性でなく、心身ともにくつろげ
る”寛容さ”であるはずです。競争ではなく共生ですし、愛情が
あるかどうかが第一の問題で、お金は二番目か三番目の存在に
なります。少なくとも日本中が貧しかった時代には、愛情だけ
が夫婦や家族を結びつける絆でした。
お金には人を惑わせるような魔力があります。お金にたっぷり
と利息がついた時代には、一億円の預金があればあくせく働か
なても豊かな暮らしを満喫できましたが、今はどうでしょうか？
二億円あればもっと豊かな暮らしが待っています。そうなって
きますと幸せな結婚も家族の未来もお金の預金残高で測るよう
になりがちです。でも今では年々お金の価値そのものが先
細りになってきています。今日の一億円は十年後には二千万円
くらいになり、二十年後には紙切れになるかもしれないのです。
そうなった時に心の縁（よすが）になるのはたった一つなのだ
と思います。
これは決して人間（ジンカン＝世の中）の終わりではありません。
人間の一つの始まりなのだと思います。人間（ジンカン＝
世の中）とはいわば振り子のようなもので、右に振れ左に振れ
てまた必ず元の位置に戻ってきます。そしてそれぞれに意味が
あるのだと思います。大切なのはそこから何をそれぞれが学び
とるかであり、学び取ったものを未来に向けていかに生かして
いけるかなのだと思います。
そういう人間（ジンカン＝世の中）という振り子の振れ方に応
じて、結婚や家庭のあり方も大きく変わってくるでしょう。
熊本の結婚相談所むつみ会の六十年の来し方を顧みてもそうで
した。たったの半世紀の間にもかかわらず、結婚や家族に対す
る考え方がずいぶんと様変わりしてきたように思います。
私たち夫婦は結婚四十二年になりますが、もちろん楽しいこと
ばかりではない、それどころか、苦しいことの方がずっと多か
ったと思います。もし楽しいことばかりであったらどんな夫婦
になっていたでしょう。二人の息子はどんな大人になっていた
でしょう？子どもにとって本当に大切なもの、子どもが心の底
で求めているのは何かということを私たち一人ひとりが考えな
くてはならない時が来ているように思われます。
