結婚相談所事始め・その３
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今と違って当時の婦人会は、熊本市の組織だけで2万世帯と
いう大規模なもので、大方の市内在住の主婦は加入している
という感じでした。その中には顔の広い方もいて、妙齢の
女性の結婚のお世話もされていました。そのほかにも先述
したように花嫁修行の場である茶道や華道、それに料理教
室などがあって、やっぱり縁結びのための貴重な出会いの
場となっていました。
それまではそんな仲人さんたちの口ききだけで、だいたい
のところ縁談がまとまっていたのですが、なかなかそれが
うまくいかなくなってきました。時代が変わってきたとで
もいうのでしょうか、だんだんと本人たちが、自分の結婚
相手は自分の意思で決めるんだというふうに急激に変わって
きたのです。
そういう次第で元々が結婚相談のためではなかったむつみ会
も、方々から結婚のお世話を頼まれるようになりました。思
いもかけないことでしたが、いざ始めてみると方々から感謝
されるしで、だんだんとそちらの方面で頼りにされるように
なってきたのです。
とはいえ、日本中見渡しても、結婚相談所という職種そのも
のがなかった時代でしたから戸惑いもありました。そんな時
母が「暮しの手帖」という雑誌に掲載されていたある記事に
出会って啓発された気持ちになりました。
それは「日高パーテイー」という、今でいう婚活パーテイー
みたいなものです。東京の日高さんという元大学の先生が、
年配の独身男女性を集めて、時々懇親会を開かれて、それが
なかなか好評であるという記事でした。
そういう偶然が重なって熊本の結婚相談所がスタートしたわ
けで、面白いものですね。それにしてもこんなに熊本もです
が日本中に結婚相談所が林立することになると想像もできな
いことでした。
むつみ会報をきっかけにして、やらなければいけないことが
どんどん増えてきました。もちろん結婚相談所の方も盛況に
なりましたが、婦人会のような公益事業ではないので、収
支が合わなければやっていけません。
協賛広告はそれなりに集まりましたが、それだけではやって
いけないようになりました。そこでどうしても結婚相談所の
方から収益を出さなければいけないようになったのでした。
結婚相談所をビジネスモデルとして考え直さなければパンクし
そうになったのです。
それでも経緯が経緯なので、そうそう思い切ったことはでき
ません。まず入会金というのをいただくようにしましたが、
今のように数万円とか数十万円とかというのは論外でした。
ですからほんの気持ちということで、確か二千円だけは、遠
慮しいしいですが、いただくようになりました。お見合いの
時の手数料も、結婚が決まった時の成婚料もなしです。利用さ
れる方にとっては大歓迎でしょうが、こちら側の立場としては
四苦八苦という状況です。よくそれで何年もやっていけたもの
だと思います。
やがて首都圏はもちろん隣県の福岡でも純然たるビジネスと
しての結婚相談所がぼつぼつ見受けられるようになりました。
ビジネスである以上は私たちのような低料金システムでは到
底やっていけないわかってはいましたが、その格差には改め
て唖然としたものでした。
入会金だけで最低3万円、５万円以上取るところがほとんど
でした。そのほかにはお見合い手数料がありますし、成婚し
たら数十万円です。
私はその頃には大学も卒業して結婚相談所は忙しい休日だけ
手伝いしていましたが、母も流石にこのままではいけないと
思ったのでしょう。でも、どうしても吹っ切れないところが
あって、入会金を五千円に上げたのが精一杯でした。
そのころは会報の方にはとても手が回らなくなったので、結
婚相談所の収入だけでやっていくしかなかったので、それく
らいの料金ではギリギリでした。
思えばあの頃は競争相手もほとんどなかったのですから、思
い切ったことをやっていれば、今頃は小さなビル一つくらい
建っていたのかもしれません。だってあの頃は成婚率が今と
比べると格段に高くて、月に五組も六組も成婚していたので
すから、成婚料をきちんといただいていればよかったのだと
思います。
でもそれは仕方のないことだったのでしょう。母は元々がこ
の仕事を金銭的な欲から始めたわけではなかったのですから。
たくさんの幸せなニューカップルを自分の手で送り出していく
ことに何にも変え難い喜びを感じていたようですから。
よろず悩み事相談所のような側面も多分にあったし、そんな
人間的な交流に人生最後の生きがいを見つけていたのかもし
れません。
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