昭和二十四年生まれ、今年九月で七十三歳ですか。所謂団塊
世代のど真ん中に生まれました。
戦争が終わって産めや殖せでネザミ算式に人口がふえていて、
列島からはみ出すんじゃないかと半分はマジで心配されてた
くらいです。
ブラジルに移住する人もその頃が一番多かったのじゃない
でしょうか。そういえば手取教会のところに移住協会なるも
のがありまして、そこへ行きますとなにやかやと親切に相談
に乗ってくれました。まだ日本中が貧しかった時代ですから
多くの人が海外雄飛すれば夢が叶えられるような気が漠然と
していました。
僕なんかも移住を本気で考えた時期がありました。ブラジル
はまさに地球の裏側に位置していまして、要するに日本から
一番遠くて、地の果てのようなところです。
まだ旅客機は少なくて、船旅ということになりますからな
おさらです。はるばると大海原を越えてということになり
ます。でも遠ければ遠いほど大きなチャンスがあるような、
何らの根拠もなしに、そんな気がしていたものです。
今ではSNSで、いながらにして地球上のどんな場所でも情
報を入手できますが、当時はそんなものゼロです。
何も知らないということは怖いことですが、おかしなこと
それって同時に怖いもの知らずということにもなります。
体力にさえ自信があれば、どこに行ってもどうにかなると
いう向こう見ずな若さがありました。そういう向こう見ずな
若さが今となればとても懐かしい気がします。
人間ってのは歳を重ねて行くと向こう見ずさからはどんどん
縁遠くなっていきます。まずは第一に体力のことを考えてしま
います。大きなリスクには耐えられない肉体的宿命を背中に
いつも背負っているわけですね。
でもその代わりと言っては何ですが、たくさんの武器を手に
入れています。その中でも最強と言えるのは、諦めるという
武器です。若いときには諦めないというのが武器ですが、
歳を重ねるにつれ、逆に諦めるというのが強みになるわけ
です。たとえ何があっても、仕方がないと思ってしまえば
いろんなことが解決して夜もぐっすり眠れるのです。
肉体が衰えれば、今度は心が成長していきます。
「時熟」という言葉がありますが、経験がつくった忍耐であり
まあ、知恵みたいなものでしょうか。
美女であることが最大の売りである女優さんなんか、その点
可哀想ですね。なかなか気持ちの切り替えが難しいようです。
どんなに厚化粧をしてみたところで限界というものがあります。
というか厚化粧でごまかそうとすればするほど、自分が惨めに
なるだけでしょう。地震でも来れば一瞬で剥げ落ちてしまう
漆喰の壁土にしか他人には見えないことさえわからなくなる
のです。という次第で彼女たちは「時熟」から見放された存
在になってしまうのです。
話はベビブームやら加齢やらのテーマから随分飛躍してしま
いましたが、これも歳のせいだと思ってください。老い先が
見えてくるとせっかちになってくるのです。
さてと、ことは女性だけの問題には止まりません。男性も歳
を重ねるにつれ女性の好みが二方向に分かれていく傾向がみ
られます。うら若い女性に惹かれるのと、そうでもないのと。
前者はいつまでも若いつもりのタイプの爺さんのことですね。
そういうタイプの爺さんであればあるほど若い女性には心底
嫌われます。財産を持っていようがいまいが同じことです。
それと全く異なるアプローチの仕方だってあることに気が
つかないのは馬齢を重ねたに過ぎないのでしょうね。
若づくりは女性ほどではありませんが、好みの方が若い女性
に傾きすぎるのです。どちらかといえばこちらの方が若づく
りのおばあさんより惨憺たる感じがします。
歳をとりますと、とかく「歳はとりたくないな」というのが
口癖になります。
僕はと言いますと、そんなセリフを吐く人にはなんとなく違
和感を覚えます。歳をとればとったで、とったなりのご褒美も
あるものです。
人生が二度あれば、、、と、井上陽水は自分の父親や母親を
眺めて歌にしました。
　　　　　　　　　　　　　　（②に続く）