熊本の結婚相談所むつみ会のブログ

名もなく貧しく美しく、という結婚④

内坪井の壺渓塾から京町台の熊本地方裁判所方面へ上る
急坂がある。「新堀坂」という。自転車をこいで上れる
人はまずいない。よく健脚をを競いあう若者たちの姿を
見かけたものだが、せいぜい坂道の中途三分の一あたり
で力尽きた。
自転車どころではない。今では軽自動車の排気量は680cc
だが、当時はおよそ半分の360ccしかなくて、古くなると、
原付のようなけたたましいエンジン音を立てて、喘ぎ喘
ぎ走っていた。そんなポンコツ車はその急坂を眼前にし
て一旦停止する。そして逡巡する、突撃するべきか退却
するべきかと。
なぜならその坂の途中で、今まで何台もの車がエンスト
したり、エンジンが凄まじい爆音とともに壊れたことな
どがあって、ドライバー受難のスポットとして知る人ぞ
知るすスポットだったのだ。
その新堀坂の中ほどから左下手に伸びる一本の露地があ
り、行き止まりになった一帯が五、六軒ほどの旧い住宅
のかたまりになっていた。その中のひとつが小学校4年の
頃の我が家であった。住んでいたのは短い期間であったが、
忘れ難い思い出がある。
風が冷たくなりだす頃、といっても冬支度というほどのこ
ともない。暖房器具といえば火鉢一つだし、着るものもも
う一枚重ね着するくらいだった。
ジャンパーなんてない(高級な本革モノしかなかった)。
それどころかセーターもマフラーも手袋に至るまで全部母
親の手作り(既製品は売ってなかった)しかなかった。
だから当然母親が忙しい家庭では、寒いとか冷たいとかい
う問題に対しては、ひたすら我慢の一手しかなかった。
いや確か既製品のマフラーをぼつぼつ目にしだしたような
気がするが、子供向けではない。子供はあの頃は徹頭徹尾
風の子だったのだ。

そんな季節のある日のこと、坂下界隈の6軒の一つに、うら
若い「お兄さん」と「お姉さん」が越してきた。
引っ越しといっても荷物はリヤカー半分もない。日曜の午
前、その年最期の秋の空が心地よく晴れていたのを何故か
憶えている。
私たち子ども三名の遊び仲間は妙に人懐っこい。今と違っ
てゲームはもちろんTVも家にはマイルームもない。貸本マ
ンガはあるが小づかいがない。しかし何もかも揃っている
今の子供からすれば信じられないくらい退屈ということを
知らなかった。何もない分、いや正確には余計な刺激が少
ない分、好奇心と想像力と創造力の塊だったのだろう。
いつのまにか引っ越しのリヤカーの周囲にたむろしている。
そしていつの間にか数少ない荷物を一緒になって運び始
めている。
「あらっ、坊やたち手伝ってくれるの?ありがとう」
「おー元気いいね。これからお隣さんになりますのでよろ
しくー。そうだ!昼過ぎには落ち着くと思うから、皆で遊
びにおいで。」
「いいわね、きっと楽しいわ」。
「お姉さん」「お兄さん」はまるで屈託がない。それに二
人とも貧しそうな割には言葉遣いが、周りの耳なれた大人
たちの方言丸出しとは違って、そこはかとなく上品なのが
ひどく新鮮で魅力的でちょっと違う世界の人だった。
だからもう心はソワソワし始めて、お昼過ぎを楽しみに
していた。

それからというもの毎日のように遊びに行った。月曜から
金曜は「お兄さん」と「お姉さん」が仕事から帰ってきて、
夕食が終った頃、日曜は昼間から。「お姉さん」がわざわ
ざ呼びに来ることもあった。
二人の家といっても、屋根裏部屋である。斜めになった剥
き出しの屋根天井は低く、窓もろくにない。夜は暗い梯
子のような階段をギシギシいわせながら上っていくと、裸
電球がポツンと灯っている十畳くらいのスペースがある。
家具類はない、といってもいい。箪笥もない、食器らしい
食器もない。ちゃぶ台と本棚替わりの”リンゴ箱”が三つ程、
近所の八百屋さんから譲ってもらったのだという。
段ボールが発明される(ある日本人の国際特許品)のはま
だ数年後、りんごなど重量物にも耐える強化段ボールが出
るまでにはさらに数年を待たなければならない。それまで
は板製のリンゴ箱だった。カンナもかけてないざらざらで
薄手の杉の板をいかにもぞんざいに打ちつけた、80cm40
cm四方で、高さが50cm程の手頃なサイズのその箱は、
貧しくモノが少なかった時代には、いろいろな場面で重
用された。

「お兄さん」と「お姉さん」が”新婚さん”と呼ばれる何か
特別の間柄であることを知ったのは、しばらくしてからで
あった。母や近所の大人たちがそう言ってたからである。
何かしら特別の関係というだけで、新婚の具体的な意味も
分からなかったし、知りたいとも思わなかった。仲間とか
友だちとか、そんなありふれた意味の範疇で構わなかった。
当時の小学4年生はまだ無邪気で、男女といえば即恋愛や
性に結び付けるすべも知らなかった。
新婚さんだろうが何だろうが、私たちにはどうでもいいこ
とだった。子どもとも無論違うし、ただの大人たちとも違
った、それはまさに新しい世界であり、未知の匂いがする
空間だった。
うら若い男性と女性が一緒に暮らすこと、肩を寄せ合って
生きていることの面倒くさい意味なんて分かっても仕方が
なかった。ただ一緒に同じ空気を呼吸していた。
そしてなぜかそこにいると胸がときめき、とても楽しい気
持ちになった。
遊びにいくといってもお菓子が出るわけじゃない。その頃
徐々に普及し始めたTVがあるわけでは無論なく、それどこ
ろか炭火の影すらない。
うすら寒い屋根裏部屋の裸電球の下で、私たち、「お兄さ
ん」「お姉さん」と私と友達二人は、トランプや花札に興
じ、尻取りゲームなどで笑い転げながら冬の夜を過ごした。
ただそれだけ、そう、ただそれだけのことだった。
なのに何故あんなにも楽しかったのだろう?温かだったの
だろう?未だにこうして目に浮かぶように、耳に聞こえるよ
うに、思いだすのはなぜなのだろう?

清貧のすすめなんていう書物が今頃ベストセラーになったり
しているが、私たちが憶えているあの新婚の風景は貧しさた
ちによって彩られていた。
そしてまた同時にこうも思うのだ。
「あの新婚の風景は貧しさたちによって祝福されていた」
と・・・。 
もしもである、あのとき私たちが凍えていなかったら、お
腹がいっぱいだったら、床に豪華な絨毯があったら、絨毯
の上にふわふわのソファーがあったら、もし天井には裸電
球でなく、シャンデリアが煌めいていたら、今ここにこう
して追憶に浸ることもなかったろう。
たとえ貧しくとも新婚は新婚だ、というよりあの頃、新婚
とは貧しいのが当り前だった。文字通りゼロからの旅だ
ちだった。
そして少なくともあの「お兄さん」と「お姉さん」は、愛
情さえあれば生きていける、誰よりも幸せにもなれる、そ
う信じていたに違いない。だってあの時私と二人の友だち
は確かにあの屋根裏部屋で、彼と彼女の溢れるような幸せ
の分け前に預かったのだから。
あの時代にはそういう幸福のカタチが紛れもなく存在して
いた。そうだ、思い出した!正月には「お姉さん」が貰っ
てきたのだ。火鉢を・・・。その火鉢で皆で焼いて食べた
お餅の美味しかったこと。

幸せは確かに求めなければ手に入らないものかもしれませ
んが、同時に追えば追うほど遠ざかるのも幸せである、
ということも言えるとおもいます。恋人同士のさや当てゲー
ムみたいなもんか。
貧しかった僕たちの世代は、豊かになりさえすれば、そこ
にきっと絵に描いたような幸せが待っていると一途に信じ
て生きてきましたが、いざそうなってみると、、、
まあ、そんなもんでしょうか?
あまりにも一つにとらわれすぎるあまり、他のたくさんの
ことを見失ってきたような気もします。
暮らしのダウンサイジング(日々の暮らしをできるだけつ
つましいものにする)という言葉があります。そもそもが
豊かさというのはどういうレベルの生活に対して豊かであ
るか比較の問題ということでもありますね。
多分人それぞれで、天と地ほどの開きがあるでしょう。人も
うらやむ豪邸に生まれ育った人が、落ちぶれて敷坪50くら
いのおうちに移ったらとても惨めに思われるでしょう。
でも十帖の屋根裏部屋から、50坪の一軒家に移ったら多分
天にも上った気分になれるかもしれない。
だとすればです、どちらがいいのでしょうね?
前者であればいつも心のどこかに、生活がダウンサイジング
する心配をいつも抱いているでしょう。
後者であれば、全くその正反対です。これ以上は悪くはなら
ないのであれば、心の中は希望でいっぱいです。
両者の胸の内をのぞいてみれば、どちらの方が豊かで、ど
ちらの方が貧しいか?
そういう風に考えて行くと、もうどっちがどっちなんて分か
らなくなりますね。大体が、80億人弱が、みんなマイカーを持って、
庭付きの家に住んで、飽食を繰り返したら、地球の生態系がどうなる
か?そんなこと考えなくてもわかるはずです。
地球の経済、限りある地球の資源を支えているのは、豊かな
暮らしを謳歌している人たちではなく、
貧しく清く美しく生きることを知っている
無数の人たちなのだと思います。
今ではミリオンダラーではなく、ビリオンダラーが豊かさの
象徴となっていますが、実はそんな(トンデモナイ)人たち
が地球全体の経済をいびつなものにし、限りなく寿命を縮
めているのではないか?そうは思いませんか。

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