熊本の結婚相談② その後

熊本の結婚相談所むつみ会のブログ

2022.10.29
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バラバラな結婚適齢期の男女の情報を一箇所に集めればい
いではないかと。つまり会員制の結婚相談所なるものを作
れば、婦人会の会員が抱える大きな悩みの種が消えるかも
しれない。そう考えたわけです。
今は亡き、島崎町の、あの今は島田美術館となっている島
田家の夫人の島田トシ（当時婦人会会長で、熊本市会議員）
さんにはとても懇意にしていただいていました。それで早
速そのプランを持ち込みましたら、これは素晴らしいアイ
デアであるということになりました。
その筋で、当時の熊本市長にも会報で推薦文を書いていた
だくことにもなりました。
さてそこで、そのとある女性とは誰かと言いますと、私の母
親であったというわけです。
なにしろ佐賀県の玄界灘に突き出した呼子という小さな港町
から親父の写真ひとつを手掛かりに、上海という世界一の大
都会にお嫁に行ったというくらいですから。
母の父と母、つまり僕の祖父母ときたら恋愛とか、まして恋
愛結婚などトンデモナイという時代に周囲の猛反対を押し切
って結婚したそうなので、遺伝というのもあるのでしょう。
そんな結婚相談などという当時としては海のものとも山のも
のともつかないものを思いついて実行に移すというのは、ま
あフツーの感覚では考えられないことでしょうね。
でも確かに社会的な需要というか、多くの人が切実に求めて
いたものではあったのです。最初は皆さん半信半疑というか
おずおずとだったのが、口コミで尻上がりに利用される方が
増えていったのでした。
それに結婚が決まったら、本人たちはもちろん双方のご両親
にも感謝されるわけですから、それが結婚相談という仕事の
他にないような醍醐味だったのでしょう。
そればかりでなく、結婚というのは男性と女性のたった二人
から出発して、子どもが生まれ、成長し、二十年もすればその
子がまた新たな家庭を作ってということでもあります。
つまり白紙のような上になにものにも代えがたい自分だけの
物語を綴っていくようなものです。
母はそういうロマンをこの結婚相談という仕事に見出したの
だと思います。いわゆるお金儲けだけしか頭にないビジネス
ライクな高度経済成長時代を覆っている風潮に、強い違和感
というのを通り越して反発を感じていた母の心を捉えたのだ
と思います。
母がよく言っていたのが、
「今は一本の木かもしれないけど百年もしてご覧。一本の木
がやがて林になり森になっていくのよ」
という言葉でした。まるで馬鹿の一つ覚えのように言ってい
ましたっけ。
母にとって結婚相談という仕事のはるか向こうにそういう
風景を夢見ていたのかもしれません。
そしてそれから半世紀も経った今、確かにそれが現実にな
りかけているのです。
あの頃初々しい新郎新婦になったばかりの男女が今やお爺
さんお婆さんになり、時々そのお孫さんという人がむつみ
会結婚相談所の扉を叩いたり、というビックリが起きたりし
ます。
何せ当時は適齢期の男性や女性の絶対数が少子化の今からは
考えられないくらいに大きかったし、成婚の確率も比較にな
らぬほど高かったのです。月に何組ものカップルが誕生してい
ました。普通なら覚えきれないくらいの数ですが、母はその
全てをいきさつからご家族の方のことまで手に取るように覚
えていたのでよくビックリさせられました。ちょっと僕たち
には真似のできない芸当ですね。
それだけひとつひとつの結婚相談に精魂込めていたからこそ
できたのでしょう。
それにしてもすっかりお爺ちゃんお婆ちゃんになった人たち
が立派な青年や、チャーミングなお嬢さんになったお孫さん
と連れ立ってみえられた時の感慨にはちょっと言葉にできな
いものがあります。
あんなに若々しかった人たちの髪はすっかり白髪に覆われ、
こう言っては失礼ですが顔はシワだらけだし、歩き方だって
おぼつかない人もおられます。でも往時の面影ははっきりと
残っています。
もちろん結婚して幸わせだった人ばかりではありません。
死別された方だっておられますし、思いもかけない不運に
襲われた方だっておられます。それは仕方のないことでし
ょう。それが人の人生というものですから。
長い長い結婚生活の、楽しかったことや苦しかったこと悲し
かった四方山の話をされていきます。
そんな時にはやはり、この場に母が元気で生きていたらとい
う儚い想いにもとらわれたりします。
いやいや、そんな時には部屋のどこかでニコニコしながら僕
たちの話を聞いているような錯覚にとらわれたりします。