＜Fさん＞
「経済的理由だけで結婚できないというわけではないと」
＜由美子＞
「そうですね。結婚しない、という昔はなかった選択肢が大
手を振って歩くようになったのも非婚化という傾向に繋がっ
ているでしょうが、今一番多いのは、結婚したくてもできな
い人がとても増えたことだと思います。
そんなことを私たちの立場からすると一番感じます。昔はそん
な人はあまりなかったような気がします。
経済的な理由でといえば、昔は今と比較にならないくらい厳
しかったわけですから、それでもほとんどの若い人たちが結
婚していました」。
＜Fさん＞
「そう言われてみれば、、、、鍋釜提げてってなことも言われ
ていましたね。とにかくその日その日を食べていければどう
にかなるさ、なんて、おおらかなものだったとは聞いています。
もちろんマイカーなんてないし、新居も六畳一間くらいで共同
便所、お風呂は銭湯。それでも新婚は新婚でバラ色に輝いていた。」
由美子
「私たち夫婦の新婚時代も似たようなものでしたけど、主人が
小学生時代には、薄暗い屋根裏に、小さな裸電球が一つだけ
ポツンと灯っていて、家財といえば、布団が一組だけ。タンス
もなければ、驚いたことに食事をするテーブルもないから、リ
ンゴ箱って言ってもわからないでしょうが、カンナもかけて
いないザラザラの杉の木の板を釘で打ち付けた小さな箱を、
八百屋さんから分けてもらってテーブル代わりにしてたらしい
です」
＜Fさん＞
「へえ〜なんか見てきたような話ですが、ご主人のご親戚とか
の話ですか？」
＜由美子＞
「いえ、主人の家の近くにたまたま引っ越してきた新婚さんの
ことらしいんです。」
＜Fさん＞
「それにしても、ずいぶん微に入り細に入ってますけど」
＜由美子＞
「ご近所の遊び仲間と引越しの場面に出会って、お兄ち
ゃんお姉ちゃんたち引っ越してきたの？あらっあなたた
ちこの辺の子？お隣さんどうしになるね。どうぞ、よろ
しく、、、ってなことになって。お手伝いをしたらしいん
ですけど、荷物と言ってもリヤカーに半分もなかったらし
いんですけどね。
でもその後は毎晩のように三人連れで新居に遊びに行って
、来ない時はわざわざお姉さんの方からお誘いに来たりし
て。でも遊びといってもなあ〜んにもないわけですから、
一組っきりあるトランプで、そりゃもう楽しかったらしい
んです。それからというもの主人にとって、それが新婚さ
んの理想のモデルになったらしいです。
どんなに貧しくても笑いが溢れているような、、、」
＜Fさん＞
「いやあ〜それってすごくわかるような気がします。それで
ちょっと思い出したんですけど、あれはいつ頃でしたか、
小坂明子さんの”あなた”という歌が大ヒットしましたよね。
もしも私が家を建てたなら、小さな家を建てたでしょう。
大きな窓と小さなドアと、、、とかなんとか、それから
子犬のそばにはそばにはあなたがいてほしい、、、。
ピアノの弾き語りでなんか夢を見るように歌っていました。
あれはあの頃の思春期の女性の結婚の一つのイメージだった
んでしょうね。」
＜由美子＞
「あれは日本の高度経済成長期の頃の歌でしたっけ。あの頃
からですね、どこか結婚生活に対する憧れの形みたいなもの
が様変わりしてきたような気がします。今はもっと変わって
きてますけどね」。
＜Fさん＞
「どの辺が、、、、？」
＜由美子＞
「サザエさんというテレビ番組が今も放送されていますよね。
もう半世紀以上も続いている驚異的な長寿番組です。
あの番組の視聴者の年齢層というのが気になりますね。おそ
らく今の子育て世代は観ていないと思います。ピンとこない
じゃないでしょうか？
サザエさん夫婦とその子に、弟と妹、父と母からなっている
家族なんて大体リアルさがない。あんなの面倒くさいなと感
じているかもしれない。
でも、あれがかつては家族の普通のモデルだったわけですよね。
サザエさんファミリーと比べて、自分たちは幸せとか、そう
でないとか思っていた時代があったんですね。
我が家は三世代で暮らしていますが、町内でもそんなところ
はほとんどありません。この辺りは昔からの一戸建てが多い
んですが、老夫婦二人とか、一人暮らしのお年寄りとかで、
あとはアパートに住まっている若いご夫婦に子ども。
今は子どもたち夫婦だけでなく、親たちだって同居なんて
面倒なもんはまっぴらごめんとって思ってます」。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）