Fさん
「”好き”と恋愛感情は違うということですか？」
由美子
「ええ、違うと思います。好きと恋愛がイコールになればそれ
が理想だと思いますが、どちらかを選ぶとなれば、好きのほう
がいいように思います。I like youとI love youを比べた場合、
I like youの方が信じられるような気がします」。
Fさん
「どうしてですか？」
由美子
「”好き”っていうのは燠火みたいなものだと思うんです。火力
は弱いかもしれないけどいつまでも暖めてくれますよね。
二人で向かい合って火鉢に手のひらをかざしてるって感じ。
まわりの人たちもそれを見て何かほのぼのと心が温かくなって
きますよね。それに対して”愛する”ってのはパーと燃え上がる
けど、パーと燃え上がったものはあんまり長続きしない。
炎が消えたとき、あれは一体何だったんだろうって、、、
そしていったん燃え尽きたものは、多分もう一度ってわけには
いかない。それが怖いような気がします」。
Fさん
「ナルホドね、わかるような気がします。で、野田さんご夫妻
はいかがだったんですか？」
由美子
「へへ、、、恥ずかしいな。結構燃え上がりました」。
Fさん
「それで、、、どうなったんですか？」
由美子
「もちろん消えましたけどね、ちゃんと燠火として残りました。
性格は対照的なところがありましたけど、それがかえって幸い
したのかも」。
「あれっ！そういうもんですか。フツー共通点が多い人がいい
なんて人が多いような気がしますけど、、、」。
「最初はそっちのほうが抵抗なく受け入れることができるの
のでいいような気もしますけど、十年二十年と毎日顔を合わ
せているとどうでしょうか？こう言ったり、したりすると、
こう出てくるなというのがわかりすぎると張り合いがなくな
りますね。
行動パターンが読めない余地があるほうが、何年たっても
発見があって退屈しないし、なんか楽しい。
私たち夫婦は結婚して四十年くらいになりますけど、未だに
そんなところがあります」。
Fさん
「それにしても、恋愛という感情は難しいものですね。ちょ
っとした知り合いに、女性なんですけど、若い時に一世一代
のような恋愛をして、それが破綻した末に精神的におかしく
なってしまった人がいます。そんなのを見ると怖いような気
もします」。
由美子
「ええ、本当にそうだと思います。私もそういう方を知って
います。でも、そんなことって滅多にはないので、怖がって
もらっても怖いですね。恋愛が成就するかしないかは別にし
て、そういうふうに異性を好きになるってことはとても素敵
なことなのかなと思います」。
Fさん
「そうそう、それで思い出しましたけど、女装の東大教授で
ある安富歩さんがこんなことをおっしゃっていました。自分
自身少し身に覚えみたいなところがあって、ドキッとしたの
でおぼえているんですけどね。
自分自身でないもののフリをしてはいけないって。
自分自身優等生であったのは、単に母親の虚栄心をみたすた
めにすぎなかったらしいです。
そして「愛」とは何であるかの問いにこう答えてられました。
”一人の人間が、魂を自分自身の思い通りに成長させるために
愛情によってそれを支えるもの”だって」。
由美子
「とても深いですね。本当の自分に目覚めるために、神様か
ら与えられたもの、、、なんていう意味ですか？
そういえば、あのスタンダールという作家の恋愛論にもそん
なことが書いてありました。ええと、、なんですか、恋愛と
いうのは心の結晶作用だとかなんとか。フランスとか欧州で
は、棒を土にさしておくと、いつの間にか岩塩が白い宝石の
ようなたくさんの枝を作るらしいんですね。そういうものに
例えるなんて、すごくロマンチックですね。」