ゴッホの絵
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「あれ、34•6度。この体温計壊れてない?」
と、ニーニーがいうと、すかさず妹のミーちゃんが、
「ニーニーが壊れてるのかも・・・」
無邪気なお顔で怖いことをおっしゃる。
小学校二年の妹クンは最近周りの大人どもをドキリとさ
せるようなセリフを吐く。
つい先日にはこんなことも、、、、
「なんでわたしニンゲンなんかに生まれたんだろう?」
ホントにねえ、オバケに生まれたらよかったかねえ、
ガッコーも試験も仕事も病気もなんにもないし・・・・
それがどうもそんな他愛もないことではないようなのだ。
だって今年七十五歳になるジイジがおんなじことを思った
りするんだから。私がニンゲンに生まれたのは永遠の謎
なのだ!!何故に?いまだに訳わかんないんだから。
さて、、、、
七歳八歳の子がそんなことをほざくと大抵の親は心配顔
になる。この子はダイジョーブだろか?ヤバくない?
親を心配させる子は当たり外れのあるおみくじみたいなも
のだ。当たればデカいがハズレもある。そして親次第で当
たりの確率が上がる。あるいは、親次第でもあるし世の中
次第でもあるのかな?
小学校四年、ニーニーは妹くんのいうように壊れてなんか
いないし、すっきりした十歳に昨日なった。だけど、同級生
たちの中にはそろそろ。これから五年、六年と進級してくる
と、ボチボチ中学受験の準備を始めるクラスメートも出て
くる。イライラのオーラを吐き散らす友達も出てくる。つま
りミーちゃん流にいえば、ボクなんでニンゲンに生まれたん
だろう、、、、なのかもしれない。
大体が義務教育の”義務”とは子の義務ではない、ってゆう
いわずもながのことを知らない親が多すぎる。オギャアと生
まれて指折り数えるくらいの子どもに義務なんて言っても土
台チンプンカンプンだろう。
そもそもの親は読み書き算盤は別として我が子に余計な知恵
(屁理屈?)は付けさせたくなかった。これは別段親のエゴ
というわけではない。どうもガッコーで教えることが諸処見
聞するにつけ、子どものためにならないような気がしたから
だろう。より人間らしくなるためでなく、らしくなくなるた
め、ってゆう倒錯が白昼堂々と行われているのかも?学問
というのはガッコーの専売特許ではない。ニンゲンがより人
間らしくなるためのあらゆる試行錯誤が学問であることを忘
れてはならない。
ミーちゃんの「なんでわたしニンゲンなんかに生まれたんだ
ろう?」という疑問は「なんでニンゲンは人間らしくなれな
いんだろう?」に通じているような気がしてならない。
ゴッホは「絵は自然の中にある。僕はそれを解放するだけだ」
といったらしいが、ゴッホの絵というのは人間らしい私とい
うことなのだろう。そんな私は自然の中にあるということな
のだろう。
、
人間がお猿さんから進化したのは言葉を覚えたから。確かに
その通りなのでしょうが、いいことばかりでもなかったよう
です。なぜかと言いますと、言葉は心にもないことをいうか
らです。そりゃうっかりというのはありますが、計算づくと
いう場合がずっと多いのはご存知の通りです。
戦争なんかがその典型だと思います。誰だって本心ではあん
なものやりたくないのに、言葉の魔術に引っかかっていつの
間にか先頭に立って旗を振ってしまうようになります。特に
SNSなんかが拡散してきますと、言葉が一人歩きを始めてし
まいがちです。ウソとホントがごちゃ混ぜになってなにがな
んだかわからなくなります。効用と弊害が裏表になるのも言
葉なのでしょう。
さて、人間の大脳の中枢は古い脳(大脳辺縁系)で、これは
言葉を覚える前からあります。どういう働きがあるかと言
いますと、、、、智恵とか感性、”生きる力(個人の尊厳)”。
ところが言葉を覚えたことにより、古い脳の表面に新しい脳
ができました。この脳の発達によってニンゲンは知識を蓄え
るようになりました。古い脳が生きる力の源なら、新しい脳
は生きる手段について工夫をめぐらす働きをします。農業や
商工業の発展はこの新しい脳の働きから出てきました。
ただ問題は、この新しい脳の働きが強すぎて、古い脳が退化
してきたことです。学校で教えられることも生産のための教
育で生存のための教育ではなくなりました。私たちが日々暮
らしている環境もそうです。生産のためのもので、生存のた
めのものではなくなりました。経済先進国と言われる国ほど
そうで、そんな国ではどこも人口が減り続けています。それは
人々が結婚というものを計算づくでするようになり、その結果
として非婚率が上昇し、出生率が下がったためです。
女性と男性が惹かれ合うのは新しい脳の働きではなく、古い
脳の働きです。結婚して家族同士が慈しみ合うのもそうです。
極端に言えば、古い脳が退化すればするほど結婚も家族もだ
んだんと成り立たなくなります。さらに言えば、私どものよ
うな結婚相談所が増えたのもそのためです。本当は結婚相談所
というビジネスはない方がいいのだと思います。そもそも結婚
相談所が増えれば、結婚できない人が減るはずなのに、増え続
けています。
二十一世紀は世紀末だなんていわれます。結婚や家庭のような
身近な問題だけでなく、世の中全体に閉塞感、どこを見渡して
も出口がないような感じを受けています。
経済が発展して皆が豊かになれば幸せになれると思い込んでい
たのに、思いもよらない方向からガラガラと足元が崩れかけて
いるような気がします。
無為自然と言います。これは作為を加えずに、自然のままに生
きること、あるがままの姿でいることを意味します。
”自ずからなる”という言葉も好きです。島崎藤村の小説「初恋」
には”おのずからなる細道”というのが出てきます。自然に踏み
固められたできた細い道。そんな道で芽生えた初恋。細い道
から豊かな愛が育まれていく物語です。結婚も恋愛もそういう
風だったら素敵ですね。