ダステイン・ホフマンになれなかったよ
*
ベンジャミンは前途洋々の青年だった。
一流大学を卒業、周囲の期待を一身に荷っていた。
帰郷した彼は父母や知人たちから大歓迎を受ける。
その卒業パーテイーでロビンソン夫人を家まで送って
いった彼を夫人は巧みに誘惑しようとする。
その場はなにごともなかったが、その後二人はホテル
で頻繁に逢瀬を重ねるようになる。
やがて、ベンジャミンは夫人の一人娘エレインと知り
合い、愛し合うようになる。
夫人は嫉妬に狂うが、二人の仲はロビンソン夫人の夫
にも、そしてエレインにも知られてしまう。
すべてが破綻していく中で、エレインは父母のすすめ
る青年と結婚する事になる。
その結婚式のさなか、誓いの言葉を言おうかとした矢
先、教会の2階のガラス窓を両拳で必死で叩く一人の
若い男。
エレイン!!
絶叫するベンジャミン。
制止しようとする人たちを振り切って、
ふたりは手に手をとって逃走する。余りにも有名な、
映画「卒業」(1967年)のラストシーンだ。
この作品でダステイン・ホフマンは一躍スターダムに
のし上がる。
気になるのは、その劇的な略奪婚の場面ではない。
飛び乗ったバスに並んですわった二人の眼差しである。
(写真)
ハッピーエンドではなかった。人生は甘くはないのだ。
その後に続く、愛し合う男女のこれからの長い人生行
路を観客に思わせぶりにして終わる。
ハンパな物語ではなかった。
あなたならどちらだろうか?
「ダステイン・ホフマンになりたかった」
と思うのか、それとも
「ダステイン・ホフマンになれなかったよ」
と嘆くのか・・・・。
`
♬
君と一緒に見に行った
「卒業」をおぼえてるかい
花嫁を奪って逃げる
ラストシーンがこころにしみたね
なのにあの日僕は教会で
君を遠くから眺めているだけだった
君にもう二人も子供がいるなんて
僕のまわりだけ時の流れが遅すぎる
ダステイン・ホフマンになれなかったよ
ダステイン・ホフマンになれなかったよ
、、、、♬
(大塚博堂)
、
さて・・・結婚というのは大勢の人に祝福されて、大好きな
男女同士が一生の誓いを立てるめでたい一世一代のイベント
です。でも、一歩間違えて立場がひっくり返れば、悲劇、と
いうのはちょっと大袈裟ですか、非喜劇にもなりかねません。
大好きだった人が他の人と結婚してしまう。もう一生手の届
かないところにいってしまう。それを指を咥えて見ているし
かない。人生の一つの光と影。一方では、、、、
あなたが結婚するときもその陰で涙を流している人がいる
かもしれません。出逢いはまたお別れの場でもあるのです。
でもあえていわせてもらうなら、それって何もかもがハッピ
ーより素敵だと思いませんか?歳を重ねて思い返すとそんなこ
とも思ったりします。
結婚という出来事をめぐっていろんな人生の色模様が交錯す
る。もしこの世から結婚というドラマがなくなったら一体
どうなるのでしょう。恋愛はあったとしても、結婚がなくな
ったら・・・。
恋愛はある意味若い人たちの特権のようなものですが、結婚
はその点趣がずいぶん違います。お互いに若さを失って中年
になり、お爺さんお婆さんになっても、とも白髪になっても
やっぱり紛れもない男女のカップルですし、ロマンスである
ことには違いありません。愛情のカタチも変わっていきます
そう、いうならば、、ダステイン・ホフマンになれなかったカ
ップルがたくさんあり、誰かをダステイン・ホフマンにしてし
まったカップルがたくさんあり、その上に結婚生活というの
は成り立っています。そして子どもでも生まれれば遠い昔の
一つのエピソードになっていきます。
そちらの方がずっと素敵だとは思いませんか?恋愛から始ま
ったものが、いつの間にか今まで思いもしなかった別の愛情
の形になっている。たぶん恋愛よりもっと強い絆が二人を結
びつけている。
恋愛が若い日々の特権ならば、結婚は人生そのものに与えら
れた男と女の特権なのだと思います。