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大分との県境、波野のそば畑にて
国道57号線、滝室峠をつづら折りに登りきると、大分との県境がすぐそこに見えてきます。道筋にひっそりと佇む「波野の道の駅」。周囲は一面、白いそばの花が咲き誇っています。
隣接する小さな製粉場の香りを感じながら、私たち夫婦はいつものように「ざるそば」を注文しました。畳の上に座り、ふと窓の外を見ると——瑞々しい緑が風に揺れ、バージンブルーの空から光が降り注いでいました。
その瞬間、時が止まりました。
至福は、ふとした日常のなかにある
目の前に広がる景色は、まるで天国のようでした。心が洗われ、自分という個体が、宇宙に溶けてしまったかのような不思議な感覚に包まれました。
「至福」は、こういう時にふいにやってくるのだと、年齢を重ねた今になってわかるようになりました。若い頃には気づけなかった、心の変化。その背景には、数々の苦難や挫折をくぐり抜けてきた年月があったのです。
「我(エゴ)」からの解放
行き詰まりを感じた時、どうしようもない現実に直面した時、人はふと立ち止まります。そういうときに必要なのは、「変わること」ではなく、「手放すこと」なのかもしれません。
「我」を通せなくなったら、「我」そのものを手放してみる。自分の外側にある評価や他人の視線から自由になることで、ようやく本来の自分が見えてくるのです。
愛の本質とは、見た目を超えた“なにか”
結婚相談所を長年営んできて感じるのは、「モテる」ことと「愛される」ことはまったく別物だということです。外見の良さは、時として本質を見えにくくしてしまいます。
かつて、パーティー形式のお見合いを行っていた時期もありましたが、どうしても外見で人気が集中してしまうため、私たちはやめました。大切なのは、一人ひとりの“味わい”です。その人にしかない、時間をかけてにじみ出る魅力があるのです。
出会いは、奇跡であり不可思議なもの
どんなにベテランでも、誰と誰が結ばれるかは分かりません。ですが、出会いの現場に立ち会うたびに、人の縁の不思議さに驚かされます。
Tさんご夫婦も、そんな「予測不能な縁」によって結ばれたお二人でした。
十二年の夫婦生活、永遠の記憶
結婚してから十二年後、ご主人は先立たれました。ある日、奥様がふらりと相談所を訪れ、穏やかな笑顔でこうおっしゃったのです。
「主人は八年前に身罷りました。でも十二年間の結婚生活は、一生分の幸せでした」
その言葉に、私は返す言葉を失いました。結婚とは何か、夫婦とは、人生とは——その意味を深く問い直すきっかけとなった出来事です。
結婚相談所とは、「人間を見つめる場」
私たちはいつも思っています。どうか、目の前の人をよく見てください。プロフィールや条件よりも、その人の「人間性」に触れてみてください。先入観を捨て、一つひとつの出会いを大切にしてほしいのです。
むつみ会は、熊本で40年以上、数えきれない出会いを見守ってきました。私たちも、会員さんからたくさん学んでいます。この結婚相談所という場所は、人生を学び合う「学び舎」でもあるのです。
おわりに
「あなたは、あなたのやり方で愛せばいい」
結婚のかたちは人それぞれです。ですが、そこに共通しているのは、「まるごと受け入れる覚悟」なのかもしれません。
今日もまた、波野のそば畑のように、誰かの心に白い花が咲きますように。