結婚できない人が年々急増してきています。結婚しない、の
じゃなく、したくないのでもありません。結婚できない、と
思っているからです。結婚しない、したくないと言ってる人
たちのホンネは、結婚できない、なのです。
何しろ私たち結婚相談所を営んでいるものにとってはその最
前線にいるわけですからひしひしとそのことを感じます。こ
んな世の中になったのは長い人間たちの歴史の中でも初めて
の経験でしょう。だってこんなに結婚できない人ばかりの時
代が続いたら、人類という種はこの世からなくなってしまっ
ているはずですから。これはまさに未曾有の出来事、人類存
亡の危機なのだと言っても決して大袈裟ではないと本気で思
っています。
土台、現にこの世に女性と男性がいるのに、いや女性と男性し
かいないのに、そしてお互いが求め合っている、これはもう
間違いなくそうであるはずなのに、それができないというのは
どこかで明らかに世の中が狂っています。
では、どのあたりが狂っているかといえば、統計を見る限り
では、いわゆる中間層と称される人たちが激減しているとい
う現象です。この中間層というのはいわば世の中の原動力の
ような存在です。クルマでいえば、もちろんエンジンであり、
変速機でもあり、アクセル、ブレーキ、ハンドルでもある
と言えるでしょう。つまり中間層のいない世の中というのは、
形だけで何の役にも立たないクルマのようなものです。駐車
場に置きっ放しのクルマのようなものです。
別の言い方をすれば、ごく少数の貴族とか大地主がいて、ほ
かには大勢の零細小作とか水呑みとか昔いわれていた人たち
しかいない世の中のことでしょう。誤解怖れずにいえば
形を変えた奴隷制度のようなものかもしれません。
こういうことを言えば、すぐサヨクだとかコミュニストだとか
言われそうですが、そんなイデオロギーのヘンテコなリクツ
とは無関係なところで起きている社会現象だと言えます。
そんなことをいっても何の解決にもならないし、それどころ
か自分の首を絞めることにもなりかねません。
上流とか下流と言われる人たちがある程度はいることは仕方
がないことかもしれませんが、その真ん中の人たちがすっぽ
り抜けてしまったら社会は国は蝉の抜け殻のようなものです。
魂の抜け殻のような世の中といってもいいでしょう。
それにしても結婚したくてもできない人たちがこんなにいっぱ
い溢れる時代がくるなんて思いもよらないことでした。だから
といって結婚相談所がどんなに出会いの場を広げようとしても
徒労にしかなりえません。
熊本の結婚相談所むつみ会がスタートした五十数年前はみんな
今より収入がうんと少なかったにもかかわらず、結婚しようと
思えば誰でも、よほどのことがない限りは、いい相手を見つけ
ることができました。貧乏もみんなでなれば怖くないし、それ
が当たり前であれば気になりません。でも貧しい人とそうでな
い人がいれば、そうはいかなくなります。
現に成婚数は今とは比べることもできないくらいでした。それ
はまだ高度経済成長の余韻が色濃く残っていて未来に希望が
持てたからです。今は少しくらい苦しくてもあと十年もすれば
、、、とみんな感じていたのです。
あの高度経済成長時代には大きな会社の社長がウサギ小屋み
たいなところに住んでいて、外国から来た要人がびっくりした
というエピソードが残っています。実際、経済白書をひもとい
てみますと、経済の成長曲線と正比例するように給料も増えて
いました。それでどんどん中間層が分厚くなってきていました。
お金持ちが利益を独り占めするのでなく、そうでない人たちに
も回っていたからなのでしょう。他人から稼いだお金は、他人
に返すのが正しい経済のあり方です。ロシアのプーチンという
人物はあの頃の日本をお手本にして今の安定した共和国を築い
たのだといっていたくらいです。中間層が充実した国。
それが1980年代に入ってきますと目に見えて変わってきました。
盛んに経済成長の時代は終わったのだと喧伝されていましたが
白書では成長曲線は少し鈍化したくらいで、それに比べて給与
の成長曲線だけが横ばいになっていきました。その差額が一部
の人たちの懐に溢れかえって、行き場を失ったお金が、盲滅法
な投資に回ってバブルを引き起こし、1990年代のバブルの崩壊
となり、なんとその波紋が今の今まで続いているのです。
失われた十年が、なんと三十年も続いているのに人間は一度欲
にとらわれると歯止めがきかなくなるのでしょう。そのために
中間層がいなくなったばかりか、わずかな収入から控除されて
手取りは少なくなる一方です。
年収四百万円あれば結婚できるかなと思っていると、いつの間
にか五百万円になってしまいました。老後の資金だって一人
二千万円あればといっていたのが、三千万円になり、今や四千
万円とも言われています。もうこうなってきますといくらお金
があっても安心できません。
結婚はいうならば人生のもう一つの出発点です。結婚するまで
は両親がいる温かい家庭で、生まれ育ち、今のあなたがいます。
結婚してからは、今度はあなたが温かい家庭を築き、元気な子
どもたちを育てる番です。それがどんなに素晴らしいことかは
もちろん結婚して初めてわかることです。誤解を恐れずに言え
ば結婚もできず、自分の家族もなく、子どもや孫の顔も見るこ
とができないというのは、人生を半分しか生きることにならな
いような気がします。