なぜか精神科の医者で、なぜか小説家で、なぜかあの
佐藤愛子の珍友であった北杜夫は、なぜか幽霊が大好
きでした。
幽霊は怨めしや〜といって出てくるが、
怨めしいのは、生身の人間の方じゃないか、
と彼は断固主張します。
僕も全くもって同感。
人間くらい厄介で、はた迷惑で、オマケに面白くもな
んともない、という始末に負えない代物はないと彼は
いっているのです。
これくらいマトモな事を堂々と言えるのは、世の中広し
といえどそうそういるものではないでしょう。
かといって彼が幽霊と出会ったことがあるかというと、
トンとそんな話は聞いた覚えがありません。
そこで一つ言えそうなのは、
彼自身が生身の人間離れしているので、幽霊の方で今更
あいつと付き合っても仕方ねえ、と思っているのかもし
れません。
98歳になった珍友、愛子チャン家には最近「冥界からの
電話」がかかってくるそうであるが(ホントのことらしい)
「あらっ、久しぶり、どう元気してるの?」なんて、彼女
なら多分普通に流してるんだと思います。
だがカレはそうはいかない。感激の余り大騒ぎになりそう。
それじゃ、ユ〜レイさんも浮かばれないでしょう。
かくいう僕はといえば、他人のことばかり言えません。
電話じゃないが、「冥界からの(多分)呼び鈴」につい
ては一年くらい馴染みだった。学生時代、熊本市の坪井と
いう町にある「夏目漱石四番目の旧居」に起居していた頃の
こと。鳴るはずのない玄関の呼び鈴が定刻になると鳴った
のでした。それもけたたましくね。
最初はそりゃちょっぴりタマゲタけど、じき馴れました。
超常現象ってのは、説明がつかないというだけのことで、
現実に邂逅してしまえばホラーでもなんでもない。
さて、なぜ結婚相談所のブログで、ユーレイの話になるのか
というと、知ったかぶりを戒めたいからです。人間ってのい
うのはとかく知ったかぶりが大好きでして、それで失敗し
ます。
あの世はもちろんですが、この世のことだって説明しようが
ないことだらけです。何せ私たちの日常というものはどん
なに逆立ちしたってせいぜい半径百メートルの範囲内にとど
まっていて、移動するといっても半径百メートルが動くだけ
の話です。
ある会社の社長さんのお話ですと、目が届くのは従業員が
100名までで、それ以上になると運を天に任せるようなもの
だとか。末端では何が起きてるか、どういう人間がいるか
なんてほとんどわからない。だからわからないものはわか
らないままで済ますしかないし、わかったつもりでやるとと
んでもないことになりかねない、、、らしいのです。
恋愛や婚活や結婚生活についての体験談なるものの数々や
識者の書いたものや、小説にドラマなんかもそうですが、
あまり大袈裟に受け止めない方がいいような気がします。
なぜかと言いますと、その人が分かったと勝手に思ったこ
とを口にしたけで、わからないことには触れようとしていな
いからです。
でもこの世のこともあの世と同じでわからないことだらけ
だと思うのです。分かったつもりのわずかなことで、これか
らのことを考えるより、わからないことはわからないままに
しておいた方が、経験上うまくいきますし、何より自分の
成長につながってきます。
熊本の結婚相談所むつみ会の六十年の歴史の中で、結婚の平
均年齢がうんと低かった時代の方が成婚率が格段に高かった
のは知ったかぶりになる前に結婚してしまったからだと思い
ます。
結婚相談所で交際相手候補の写真を見ても、次にお見合いを
してお話をしても、何ヶ月かお付き合いをしても、わかるこ
となどほんのちょっぴりです。それどころかたとえ結婚した
としてもそうです。無理にわかったつもりになるからギクシ
ャクしてしまう。だからわからないことはどこまでいっても
わかりませんから、それを悔しがるのじゃなくて楽しむ、で
きればお互いにですね、そうすれば六十年でも七十年でも多
分おしどりカップルでいられるのかもしれません。
利口というのは、なんもかんもを知ってる人でなくて、わか
らんことはわからんと平気でいえる人であり、利口な男女の
組み合わせというのはそういう大らかさを持ってるカップル
なのだと思います。