三月十九日の春の始まりから、五月二十二日の春とのお
別れの日まで、熊本の街はお花の香りで包まれます。
花とみどりの博覧会も、もうそろそろ閉幕です。
ニコライ・バーグマンさんは、
”花やみどりが持つ見えない力を感じてほしい”
と言われていましたが、本当に私たちのいのちは見えな
い力によって育まれ、支えられているのだと思います。
目に見えるものだけが存在するのではなくて、目に見え
ないものだって確かに存在していて、私たちに生きる勇
気を与えてくれているような気がします。
さて、今回はTおばちゃんを紹介したいと思います。主人
の実姉ですから、義理のお姉さんなんですけど、それに
しては年齢が少々離れているので、半ばは、もう一人の
若いお母さんといった存在ですね。
おまけに、まだ子どもたちが幼く、ちょうど二人の孫と
同年齢だった頃に、Tおばちゃんの二人の娘さん（ちょ
うどその頃お年頃だったんですけど）のKちゃん、Hちゃ
んと、賑やかに一つ屋根の下に暮らしていた日々があっ
たので、なおさら他人とは思えないのです。
それに亡くなった義母も合わせて、ナント合計九人の大
家族でめちゃくちゃに楽しい毎日を堪能していました。
あれはかけがえのない尊い体験であり、今でも忘れがた
い思い出になっています。
今は福岡に住まいがありますが、時々ふらりと女トラさ
んのようにやってきて、たくさんのお土産を持ってきたり、
台所に立って美味しい料理を作ってくれたりします。料理
も上手なんですよ。
今や立派なおっさんになった長男や次男にとってもいささ
か特別な存在です。
そんな女トラさんもお花が大好きで、特に桜の季節にでも
なるもんなら、じっとしておれなくて、福岡の友人たちと
お花見を楽しむとか。
でもそんなおばちゃんがこの春はとても悲しんでいました。
長弟のM氏に先立たれたからです。急な話でもありましたし、
なかなか現実を受け入れることが難しいようでした。
我が家の孫たちも（おばちゃんにとっては、孫のような我
が息子どもの子で、ひ孫のようなものでしょうか）大好きな
おばちゃんが悲しんでいると聞いて、それぞれおばちゃんの
似顔絵に励ましの言葉を添えて、郵便で送りました。似顔絵
の上下左右はたくさんのハートで囲まれています。
すぐ電話がかかってきて、
「何よりも嬉しかったよ。可愛いお手紙と似顔絵で悲しい気
持ちもどっかへ行っちゃった。私もお返事書くね」。
🌸
🌸
花は季節を彩ってくれます。来る年も来る年も、その時が来
れば、永遠に続くかのように、です。でも、、、、
人は季節を刹那で過ぎてゆきます。何かしら、一瞬一瞬のつ
ながりがいのちというステージで夢や幻のようなドラマを演
じているような気持ちに時折させられます。
私にも子どもの頃の忘れがたい思い出があります。父の実家
がある長崎の田舎は、むせかえるような自然に恵まれたとこ
ろでした。なんかやたらだだっ広い敷地に、父が素人大工で
建てたおウチに住んでいました。
小川が一筋流れていて、林の向こうの田んぼからは、梅雨に
なるとカエルの鳴き声がうるさいほどで、夏の夜は蛍が飛
び交うような、そんなところで育ったのです。
もちろん小川のせせらぎと戯れるように、いろんな魚や生き
物たちがいました。
ほとんどが外を走り回って元気いっぱいに遊んでいました。
とくに暖かい春の季節が到来すると、あたり一面にレンゲや
菜の花が咲き乱れますから、母のご飯ですよ〜という声が聞
こえるまで、時間を惜しむようにして遊んだのをしみじみと
思い出します。
何もかにもが自然の”見えない力”、何かしらでっかいエネル
ギーに囲まれていきづいていたような気がします。楽しいに
つけ悲しいにつけ、私たち皆が自然と一体になってたような
そんな心持ちがします。
自然は何も言わないけれど、大きな愛情で私たちを包み込み、
時には厳しくたしなめてくれるような、そんな何物にも代え
がたい存在に思えるのは果たして私だけでしょうか？
忙しい日々が続きますと、つい見逃してしまいがちですが、
そんなわずかな合間にでも気がつくと、あちらにもこちらに
も春の日差しのなかで、可憐な花びらを咲かせています。
つい先日四歳になる孫のミーちゃんと散歩していますと、
道端のブロック塀の根元に小さな花の蕾がありました。気
が付いたミーちゃんが可愛い手のひらに乗せると、、、、
どういうわけか、ふわりと蕾がひらいたのです。
あれは一体何だったのでしょう。未だにとても不思議な感じ
がします。