ゆったり由美子のコラム
・・・幸福について
*
息子が十代の頃、私に訊いてきました。
「お母さんは、今まで生きてきてよかったなあと思ったの
はどんな時だった?」
突然の質問にちょっと戸惑いましたが、
十代と二十代と三十代に三度緊急入院したことが、やはり
頭に浮かびました。
運良くいいお医者さんに恵まれたおかげで一命を取り留め
ることができました。
その時に、生きててよかったなあと思った、と答えたら、
息子は、
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
と口ごもりました。
悩み深き青春の切なさが求めていた回答とは、
多分少しずれていたのでしょうね。
この間、山田洋次監督の「学校(1)」をみながら、
ついその時のことを思い出しました。
そして、今息子が同じことを訊いてきたらどう答えるのだ
ろうな、なんて思いました。
あれから息子も二児の父親となり、私も老いを感じるよう
な日々を送っています。
二十年近い歳月が、否応無しに息子も私自身も変えてしま
ったはずです。
でもやっぱり同じようなことを話すのだろうと思います。
「生きていて、よかったなあ、本当に・・・」
これは実感です。
ただ、その実感の内容はずいぶん違っています。
だって、息子たちは見違えるように成長して、それぞれに
家庭をえて、守るべきものを抱えています。
夫は無論私だってあの頃の元気さはずいぶん影を潜めました。
その代わりといっては何ですが、六歳と三歳の孫に恵まれ、
しかも毎日一緒に笑ったり泣いたり怒ったりして暮らして
いるのです。毎日誰よりものびのびと幼い命を育んでいる
姿を眺めているのは、それだけで無常の喜びなのです。
息子は以心伝心なのかもう何もきいてきません。
「お母さんは、今まで生きてきてよかったなあと思ったの
はどんな時だった?」
「そんなの愚問でしょう」と言われるに決まっているから。
今度は私が息子たちに訊ねる番です。
「あなたは、今まで生きてきてよかったなあと思ったの
はどんな時だった?」
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