七十三歳から二十歳のあなたへ、
私たちはあなたたちから学びます。
結論は至ってシンプルなのだと。
あなたは相手の眼を見て言います。
それが望みなの。
すると相手も言います。
私もよ、それが望みなの。
たくさん過まって、転んで、傷つく、
そして最後に大切なものに気づく。
愛する心と希望に出逢う。
それが二十歳という名のあなた。
でも物語に終わりはないのです。
そこで一段落するだけ。
あなたたちに未来は見えない。
だから支配しようとしないで、
ひたすらに身を委ねる。
たとえ何があろうと、起きようと。
そうそう、こういった人がいました。
今こそが人生最高の時、
なんだって・・・。
七十三歳から二十歳のあなたへ、
これはアドバイスではありません。
七十三歳の私のひとつの意見です。
、
、
チャップリンムービーを観た方なら、
お馴染みの恰好。
山高帽にキチキチの上着
ダブダブズボンに、ドタ靴・・・・・・
しかしこれは彼の独創でなく、
当時の喜劇人たちが多用していた
ごく平凡なステージファッションに
すぎませんでした。
彼はそれに一つの道具を付け加えました。
ステッキです。
このひと振りステッキが、
彼のキャラに生命を吹き込み、伝説の喜劇王
が誕生したのでした。
それはまさしく魔法の杖にほかならなかったのです。
受難とか不運の連続は、人々に様々な種類の感化を
与えます。
憎悪、悪意、自暴自棄・・・・・そして、そして、
類まれなる愛情と人格。
「街の灯」という作品、
劇場の片隅でみたラストシーンに眼を瞠りました。
主役のC.チャップリンの顔、表情のどアップ、
35ミリの銀幕からはみださんばかりの・・・
こんな終わり方なんて観た事も聞いたこともなかった。
悟られないよう苦労しながら、盲目の少女の手術
費用を工面した主人公の手に偶然触れた少女は
一瞬で事情を全て理解し、そのみすぼらしい身な
りの冴えない初老の男に向かって、
見えるようになった瞳で見つめいうのでした。
「あなただったんですね・・・・・」
無言、やさしい微笑のどアップ・・・・・
魔法のような演技だった。
こんなピュアな善意の物語は
あるいは”絵空事”かもしれない。
だが彼はこの最後のワンカットで、
空想を現実に生まれ変わらせたのです。
私たちの未来はすべて夢を描くことから始まります。
そして誰しも夢を見ることができます。
ただそれを現実にする魔法の杖を、どこかに
置き忘れてきたような気がしてならないのです。
