希望があるから歌うのではない、
ないにもかかわらず歌う。
それが歌なのだろう。
あるいはそれが踊りなのだろう。
なくなった母はお酒に酔うと必ず
僕に頼んだ。
「”悲しい酒”を歌ってよ」。
♫
一人酒場で飲む酒は、別れ涙の味がする
、、、、
(美空ひばり)
つかんだと思う先からこぼれた、
指のあいだから砂のように。
いつもそうだった。
手のひらにはその感触も、もう
残っていない。
それが母の後半生だったような。
母は死ぬまで歌が好きだった。
少し音痴だったけど、長崎の鐘は鳴るとか
ケセラセラとか、リンゴの花咲く丘とか。
希望があるから歌うのではない。
ないにもかかわらず人は歌を歌う。
