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「しゅっぱ~つ」
の車掌の合図とともに、ポイントのうえをゴットンと
起動をはじめる。
そんな列車の揺れ具合がなんと甘美であったことか!
そのとき、まさにぼくの前には、旅という非日常世界
の扉がひらくのだ。
うっとりしながら、車窓のひやりとした窓ガラスに鼻
先をくっつける。
春先にとくに魅せられた。あお霞の遠い山なみのふも
とまで、レンゲとタンポポのはなびらが咲き乱れる。
きいろいちめんなお花畑の大海原をすべるようにして、
この鉄のかたまりのような物体は、
ぼくをどこかへ運んでゆく。
いつまでもこの時間のなかにいられたら・・・と思う。
しかしいつまでも浸っているわけにはいかない、
幸せはいつだって逃げ腰で、突如として終えるのだ。
窓の外にビルの林立がめだちはじめる。
唐津市にはビルといえば、大手町のバスターミナルの
三階建てっきりだった。
突如として終わる幸せだが、雑踏の中の博多駅のホー
ムに入るや、ぼくの胸は新たな興奮と期待で高鳴りだす。