庭に咲いている綺麗な花を眺めながら、今は亡き母がぽつり
と語ったむかしの話。
といっても私の幼い頃のことです。その頃長崎の父の山裾
に広がる生家に家族四人で住んでいました。
お家の裏手にはほど高い山林があって季節々々を彩り、
庭では小川のせせらぎが聞こえてきました。
ある日、山の向こうからお魚をいっぱい積んだ両天秤のカ
ゴを担いだ行商のおばあさんが通りかかました。
一面に咲き誇っている花畑を見て、足を止めて言いました。
「きれいな花ばい」。
まだ若かった母はなんだか嬉しくなって、花を手折ると
「少しですが、、、」とおばあさんに渡しました。
するとおばあさんがニコニコしながら一言、
「花を愛する人は麗人なり」。
その言葉がなぜかずっと母の心の中に残っていたそうな
のです。実を言うと、そのお花畑を植え育てたのは、
母ではなく父だったんですが、、、。
その母は昨年の春先になくなり、残された父ももういくば
くもないという。
そして何もできない、何もしてあげられない私がいる。
季節が、時間だけが通り過ぎてゆく。
老いた父は「しようがない」が口癖になりました。
でも年々歳々、花は、摘んでも枯れても、お日様と雨水
の恵みによって、あの頃のように咲き誇り、これからだ
って続けるでのしょうねえ。
かくいう私だって、二人の孫に囲まれたれっきとしたお
ばあちゃんになりました。
”うつし世は夢、夜の夢こそまこと”なんて言葉も身にし
みるようになりました。

花を愛する人は、、、
- ゆったり由美子コラム
- コメント: 0
この記事へのコメントはありません。