大きい舞台でなければ、大きい物語は描けない
と思っているなら大きな間違いだ。
デビット・リーン監督が壮大な叙事詩なら、
山田洋次監督は小さいおうちの大きな抒情詩。
中島京子の円熟した(直木賞受賞)原作に出会
ったとき、きっと山田洋次監督は驚喜しただろ
うな。ホームドラマの最高傑作だもの。
言葉は信用できなくても、自分の五感は信じら
れる。きめ細かな日常があるからこそ、丁寧に
描かれたホームドラマから香り高い花が咲く。
山形から女中奉公にきた、ほっぺの真っ赤な乙
女タキ(黒木華がよかったなあ)が暮らした、
モダンな赤い屋根の下での、小さいおうちの小
さな出来事の数々。
時代は、二二六に満州事変からシナ事変、そして
日米開戦・・・緊張が高まっていく。
そんな日々のなかで起きる、奥様(松たか子)と
板倉正治という画家志望の青年の秘事。そんな
人物たちの心模様がタキの心の中で大きな大きな
物語に発展してゆく。
人はみんなそんな自分だけの物語を持っている。
そしてそれを大きな物語に綴ってゆく人とそうで
ない人がいる。それがきっと人がこの世を生きて
死んでゆくということなのだろう。
そういや、作中で言ったの誰だったっけ?
「始まったことは、必ず終わる」。

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