フランシス・ジャムが好きだった。
フランシス・ジャムは驢馬が大好きだった。
なぜかって・・・・・
驢馬はおバカな詩人だから。
僕がフランシス・ジャムに出会った昭和40年代、
日本はまさに高度経済成長のまっただ中でした。
街のあちらこちらにビルが林立し、
その谷間を無数の車が奔流のように走り、
冷房のきいた、総ガラス張りの自動ドアの洒落た
喫茶店も沢山できました。
カラーTVが多くの家庭の居間に鎮座し、
70ミリの映画の大劇場ができました。
活気にあふれ、未来が光り輝いているようでした。
でも豊かさと引き換えにおバカな詩人も
いなくなりました。
柊のいけがきに沿って歩いてゆく
優しいロバがいなくなりました。
貧しい人を乗せる、思案顔の、ビロードの眼差しの
くたびれて、打ちひしがれた
優しいロバがどこにもいなくなりました
野山や川や海は荒れ果て、
ふるさとはもう追憶の中にだけしか
存在しなくなりました。
豊かさの中で未来は段々光を失っていきました。
フランシス・ジャムが好きでした。
フランシス・ジャムは驢馬が大好きでした。
なぜかって・・・・・
驢馬はおバカな詩人だったからです。

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