以前次男とケイカラーメンに行ったとき
「ラーメンはケイカに始まり、ケイカに帰る」なるケイク
(警句)を次男が吐いた。
同感ではあるが、僕の長いラーメン遍歴からすれば、
「日本の戦後食はラーメンに始まりラーメンに帰る」
ということになる。
始めて塩鮭を食べたとき、世の中にこんなうまいものが
あるものかと、幼くして貧しかった田中角栄は感動した
そうだ。
人臣位をきわめても、一番の好物は塩鮭だったそうな。
庶民宰相を象徴する格好のエピソードとなった。
しかしお付きの板場は楽だったろうな。
「今日の夕餉は塩鮭がいいな」
「あいよ、大将、待たしやしやせん」
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僕が初めてラーメンなるものと邂逅したのは忘れもしな
い小学校二年の、ある冬の夜のことである。
父と親戚宅をたずねた帰途、うすあかいランプに照らさ
れた屋台があった。凍てつく闇の中に、白い湯気をたて
てひっそりと佇んでいた。
「シゲハル、ラーメンでも食べるか?」
父が言った。
「ラーメン・・・?」
僕は小首をかしげた。
外食の習慣など皆無だった昭和三十年代初めのことだ。
だからして、父のその一言は小学2年生の僕を天にも
思いにさせた。
しかしである初耳だったのだ。
ラーメンとはいかなる食べ物であるのか?
見当も付かない。
しかし熱い丼から豚骨スープを、麺をすすったとき、
幼い田中角栄と同じような、いや多分その十倍くらいの
衝撃に撃たれ、至福に浸ったのだった。
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その日以来、どんなご馳走を食べても、たとえばお寿司
くるくる回らないヤツ)、どでんとした伊勢えびのフライ、
血が滴るような分厚いステーキなどなど、何を食しても
ラーメンには遠く及ばなかったのだ。
そして今ラーメン全盛時代が到来し、日本列島どころか
世界中を席巻しようとしている。
死ぬ前に何が欲しいかと問われれば迷いなく、
僕はラーメンと答える。

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