天国にて、、蕎麦の花
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国道57号線滝室峠をつづらおりに登りきると、
やがて大分との県境がすぐそばだ。
道筋にポツンと波野の道の駅がある。
四囲は見渡すまでもなく一面蕎麦の白い花が
咲き流れている。
隣接して小さな蕎麦の製粉場もある。
ここまで足を伸ばすと、お昼はここで、そして
必ずざるそば。
僕は例によって注文し、妻と向かい合わせで
テーブル越しに座っていた。
畳の上の座布団に胡坐をかいた。
大きな伸びをひとつくれてやると、
目線がふわりと浮いた。
その先つに磨き上げられたスクリーンのような
大きな窓があった。
窓外には瑞々しいみどり葉が繁茂し、
バージンブルーの空から惜しみなく、
光の粒子が生まれ、そこらじゅうに弾けた。
そのとき一瞬、移りゆく季節のはざまで、
時の流れがハタととまった。
突然なにかしらおごそかな歓喜で満たされて、
ぼくは茫然として自分を失った。
個体が、宇宙の中に消えてしまった不思議
な感覚。
至福は時として、突如としてこころをこの世なら
ぬところへと躍らせ、去ってゆく。
ほんのひとときの出来事だが、天国を信じさせ
るには十分な時間だ。

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