海の見えるちいさな町で僕たちは生まれました。
寄せてはかえす潮騒が子守唄かわりです。
ざざ、ざざという果てしないモノトーンは
七十歳になった今でも、心音のように
僕たちの胸臆で鳴り響いています。
人は遠い遠いメモリたちがおりなす
錯覚のなかで、半ば夢見るように生きている
のではないかと、よく太郎は考えてしまうのです。
玄界灘の波の色は濃紺色です。
藍より青く、藍より深く、
という形容がぴったりです。
まわりの大人たちも、ここでは子どもの続きのよ
うに素朴でした。
そうです、愛より青く、愛より深く・・・
だから子どもたちはなにかしら大きなものに
見守られ、抱かれて育つのでした。
僕たちは誰もそんな思い出を誰かと共有しています。
そしてそれは美しい夢となって今という毎日を支え、
未来を生きる勇気となっていくように思います。

この記事へのコメントはありません。